A沼くんリターン 武勇伝


久しぶりに甲子川沿いにジョギングにやってきた私だが、
何かが、物足りない。


友達のいない私は、もしかすると、またバッタリ、A沼くんに会えるんじゃないか、
そんな淡い期待を持っていたのかも知れない。


ああ、寂しい。



しかし、A沼くんとはそんなに親しくないので、
メルアドましてや電話番号も交換できていない。


ただ、わかっているのは
A沼くんは、「クルミ採りの名人」で、
秋が近づくとクルミの木の下にやってきては、実が落ちていないか、
探しにやってくる、ということだけだ。



クルミの木の下を歩いてみたけれど、A沼くんはいない。


あぁ、A沼くんに会いたい。



A沼くんには、武勇伝がある。



「中学の時、登校拒否児のミスティー(アダ名)くんとケンカして、ミスティーくんの歯をへし折った」という武勇伝だ。
「へし折った」というと聞こえが悪い。
A沼くんの頭に偶然、ミスティーくんの歯がぶつかってしまい、折れたのだ。
そのうち、歯がないことに気付いたミスティーくんが「歯がない、歯がない」と騒いで、
みんなで探していると
A沼くんの頭に刺さっていた、という武勇伝だ。


あぁ、A沼くんに会いたい。



A沼くんのいない甲子川の土手には
恐らくは、A沼くんのものではないだろう、何かの糞がいくつか転がっていた。